<前回記事の続きです> 町を出るため 車をUターンさせようと、港湾沿いの一本道を走っていたら、小さな町営魚市場(Poissonnerie Municipale)があることに気付いた。
しかも、私がさっきまでいた辺りは人気が少なかったのに対し、ここは人の出入りが比較的多く、ほんのちょっと賑わっている。
市場を訪ねるのが好きなので、少しだけ観てみようと再び車を停めた。
建物に入ると、顔を出したばかりの朝日が真っすぐに窓から差し込んできた。
今朝上がったばかりとわかる魚介がキラキラと並んでいる。
やさしそうなマダムが話しかけてきた。「Bonjour. 何にしましょうか?」
「あ、いえ。ごめんなさい。買い物ではないんです。写真、いいですか?」
「魚の? それとも 私の? あははっ!」 マダムは豪快に笑って 隣にいたムッスュを小突いて向こうへ行ってしまった。
どうせならマダムの笑顔も撮りたかったけれど、とりあえず魚介を撮らせてもらおう。私はもう一度ムッスュに訊いた。「写真いいですか?」 頷くムッスュ。
考えてみれば、市場の雰囲気に促されて、これまで幾多の魚介や野菜の写真を撮ってしまったことか。。。
どの町で撮影しても、だいたい同じような写真ばかりになってしまい、代わり映えしない。
それでもやはり旅先では、市場を訪ね その雰囲気に浸るのは楽しい。
礼を言って外へ出る。
すると私と入れ替わるように一羽のカモメが市場に入って行った。
中から、「お客さんよぉ」と言ったのかどうかは判らないが、そんな感じの声が聞こえる。
・・・と、すぐにカモメが出てきた。手長エビを咥えている。
あら、もしかしたら、常連さん?
カモメは、エビを一旦地面に置き、咥え直して飛び立った。
風に煽られ、ふわふわ漂う。(冒頭写真)
さっきまで暗かった空が、青く 明るくなっている。
澄んだ 冷たい空気が、私の全身を覆い 揺する。
流れに乗ったカモメは、しばらくしてどこかへ消えた。
さぁ、私も、発つとするか。