ブレスト(Brest)からロスコフ(Roscoff)へと車で向かう行程を考えていた際、どこか面白そうなところは無いかなぁと、地図を眺めていた。
最短距離となる内陸を通るルートは 早く行くことができ便利。
しかし、それでは面白くない。「ちょっと寄り道を・・・」という、いつもの癖がでてしまい、ブレストからプルゲルノー(Plouguerneau)まで一気に北上し、そこから海沿いを通ってロスコフまで行ってみることにした。
プルゲルノーの町で しばしの休憩タイムをとったのだが、こんな小さな町にも こんな立派な教会があるのか! と驚くほど、ブルターニュの人々の信仰の深さを改めて感じた。
そこから先の 海沿いの道は退屈なところが多かった。
地図で見れば、道は海のすぐ際を走っていて、「きっと眺めが良いはず」と思っていた辺りも、実際の海岸線は遥か彼方にあるようで、車はただの湿地帯や草原地帯を進むことになる。
潮の干満差が激しいこのあたりは、地図上でその景色を想像するのが難しい。そう感じるドライビングとなった。
しかし、ずぅーっとそんな調子というわけでもない。
ところどころでビックリするくらい美しく青い海が、手つかずのまま迎えてくれるのだ。
突如現れた水平線
車を停め 風の重さを感じるドアを押し開ける
巻き上げられる潮の香り
延々と続く浜辺に 延々と打ち寄せる波
今 ここに 私以外 誰もいない
辺り一帯 小さな白い花
ぶるぶる ぶるぶる 震えている
はて? いったいここは どこなのだ
いったい今は いつなのだ
・・・なんだか不思議な錯覚に陥る。
海沿いに現れた不思議な場所
そうこうしながら東へ進んで行くうち、たくさんの人がいる場所に出た。
海沿いにあるメネアムという村だ。
砂で覆われた小さな駐車場に車を停め、巨岩の転がる海沿いを歩く。
エメラルドに輝く海を眺めていると、どこからともなく1匹の犬が現れた。
クリクリの目をした、とても可愛らしいコだ。
「あらアンタ、どこから来たの?」
犬は私に愛想を振りまきながら 人気のない岩の隙間を潜り抜けてゆく。あとを追う私。
しばらく行くと、海に突き出た大きな岩に 並んで腰かけ 海を眺める人たちがいた。
私と同世代(50代)らしき ご夫婦と、おそらくその娘さんの3人。
犬は彼らのもとへ。
犬が戻って来たことで、彼らは帰り支度をはじめた。しばらくここでピクニックをしていたという。
「このコに連れられて来てしまいました。いい場所ですね、ここ」
「そうでしょ。涼しくってね。静かだし海もキレイ」
「可愛らしいワンちゃんですね。名前は何て?」
「キャラメルっていうの。14歳のお爺ちゃん犬よ」
キャラメルお爺ちゃんは 足取り軽く 飼い主さんのあとについて去ってゆく。
私も、陸地側へと移動する。
しばらく進むと、目の前に とても不思議な建物が現れた。
大きな岩に挟まれた石造りの家。
雰囲気的には祈りの場所。きっと神聖な場所なのだろう。
そう思って立ち寄ってみたが、中は伽藍洞。それはかつて「見張り小屋」として使われていた建物らしい。
神聖な場所というのは 私の勝手な思い込みだった。それでも、建物自体はとても面白く魅力的。
周りの巨岩には裏側から上ることもでき、子供でなくとも上ってみたくなる。
この場所が 村の中心。
そして現在、村に住人はいない。
近くには、かつて村民がいたころの暮らしを紹介する博物館があり、野外ギャラリーがあり、コテージやレストランもある。
暮らす人はいないが、村は今、人気のリゾート地となっている。
住む人が0人になってしまったというのは、集落として 寂しい。
しかし、この不思議な建物と眼前に広がる美しい海が、今でもたくさんの人々を呼び寄せている。